d-およびf-電子を含むIV族ナノクラスタ磁性物質の合成と物性

2001 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13304031
• 研究機関: 大阪市立大学
• 研究代表者: 谷垣 勝己 大阪市立大学, 大学院・理学研究科, 教授 (60305612)
• キーワード: IV族元素 / ナノクラスタ / 磁性 / d-電子 / f-電子 / 遷移金属 / 超伝導 / 電子相関

研究概要

IV族(C, Si, Ge, Sn)原子から作り出される正12面体クラスタを基本要素とする結晶において、結晶のサイトに磁性元素を含む物質を合成して、その構造と物性を検討した。実際に、Ba_8Ge_<43>物質構造のGeクラスタ固体にdブロック系の磁性電子であるMnを導入したクラスタ物質を作り出す研究を行い、結晶の6cサイトにMnを導入したクラスタ結晶Ba_8Mn_2Ge_<44>を合成する事に成功した。本物質系は、Baから導入される伝導電子系とMnの磁性電子系が相互作用を有するクラスタ系での磁性物質である。磁性物性を測定したところ、この物質は図3に示すように、強磁性体への相転移を12Kで生じる事が確認された。電子スピンの飽和磁化は、低温で測定した場合約0.7μBであった。これはMn(1s^22s^22p^63s^23p^63d^54s^2)の電子状態を考えれば、Mn^<2+>のd軌道が四面体の配位子場分裂のために低いエネルギー準位である2つのe_g軌道と、よりエネルギー準位の高い3つのt_<2g>軌道に分裂するために、低スピン状態である全スピンS=1/2に近い値が観測されたものと考えられる。磁気測定を零磁場冷却後に昇温する測定するモード(ZFS)と弱磁場中で温度を下げながら測定するモード(FC)での磁化率測定を詳細に行い、この物質は非常に弱いヒステリシスを示す事を確認した。このMnを含んだ物質がGe系物質の中で特別なものかどうかを調べるために、Ge-Mn-Baの3元系物質において種々組成を変化させて相図を検討した。その結果、本研究で見出された磁性は、正12面体クラスタから構成されるタイプIのクラスレート特別の領域で見出されるユニークな電子物性である事がわかった。一方、Ceを含むSi系物質に関しては、発現する磁性は、ThSi系構造に由来するもので、クラスレート構造から発現するものではない事がわかった。

研究成果

• [文献書誌] Katsumi Tanigaki, Tetsuji Kawaguchi, Masahiro Yasukawa: "Silicon and Germanium Clathrates with magnetic Elements"Proc. in ISNM2001 (International Symposium of Nano Materials 2001). 195-198 (2001)
• [文献書誌] Junji Takeuchi, Katsumi Tanigaki, Balvinder Gogia: "Structure and Properties of rare-earth C 60 fullerides"Proc. in ISNM2001 (International Symposium of Nano Materials. 361-364 (2001)
• [文献書誌] Yasukazu Kajihara, Katsumi Tanigaki, Takeshi Akasaka: "Magnetic-Field Induced Ferromagnetism in Bissilylated C_<60> by Pyrolysis"Proc. in ISNM2001 (International Symposium of Nano Materials. 433-436 (2001)
• [文献書誌] Tetsuji Kawaguchi, Katumi Tanigaki, Masahiro Yasukawa: "A Reply to the Comment by V. Pacheco, et al.: Silicon Clathrates with f-Electron System"Phys. Rev. Lett. 87・09. 9602-9602 (2001)
• [文献書誌] 谷垣勝己: "カーボンナノチューブ (化学同人)"10章:ナノチューブの量子細線への応用. 141-154 (2001)
• [文献書誌] 谷垣勝己: "日本応用物理学会誌 Newsletter 112"IV族クラスタ固体の強磁性. 7 (2001)
• [文献書誌] 谷垣勝己: "日本物理学会誌"SiおよびGe正12面体クラスタ固体における伝導と磁性. 5 (2001)