本年度は、研究計画の通りパルス電子回折装置によって分子の電子回折像の観測を行い、以下の成果をあげた。 (1)ナノ秒パルスレーザー光(Nd:YAGレーザー光)を電子銃の陰極表面に照射し、高速電子線(20-40KeV)をパルス状に発生させることに成功した。電子線のパルスの時間幅を測定したところ約7nsであり、これは照射したレーザー光のパルス時間幅と一致するものであった。 (2)生成したパルス電子線をArガスや四塩化炭素(CCl_4)のパルスビームに照射し、得られる電子錯乱を、インテンシファイアー付きのCCDカメラによって二次元画像の形で取りこみ積算を行ったところ、電子回折像を十分なS/N比で観測することが出来た。 (3)二硫化炭素(CS_2)のビームを別のYAGレーザーによって生成したパルス強光子場下にさらした。そして、その状態にあるCS_2の電子解析像をパルス電子線によって観測することに成功した。これは、強光子場下にある分子の電子回折像の観測として世界で最初の例である。 (4)得られた電子回折像を解析したところ、分子錯乱強度のパターンは同心円状のものから歪んでいることが明らかになった。その歪の状況は、直線状分子であるCS_2が強レーザー場の偏光軸方向にその分子軸を揃えるという配向現象が起こったことを示している。 (5)強光子場のもとでは分子はその方向を光子場の偏光方向に揃えることが理論的に予測されていた。上記の観測はそのことを回折像の観測という直接的な方法で示したことになり、その意義は極めて大きい。上記の内容を論文としてまとめChem. Phys. Lett.誌に投稿したところ、その重要性がただちに認められ、同誌2月号に2つの報文として発表された。(次ページ参照)
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