研究概要 |
本年度は、研究計画どおりフェムト秒レーザーを用いて時間幅約10ピコ秒の超短パルス電子線を発生させ、強光子中分子の化学反応を追跡した。 (1)フェムト秒レーザー(100fs,266nm,10Hz)により生成したピコ秒電子パルス(25kV)は、パルスあたりの電子数が最大10^4個程度であるため、高感度検出が必要であった。そのため、検出器としてイメージインテンシファイアを用いて、パルス電子回折像を観測した。また、画像の検出は、高感度冷却CCDを導入した。そして、ナノ秒強レーザー場(10^<12>W/cm^2)において時々刻々変化するCS_2分子の構造変形過程の実時間観測に成功した。この構造変形は、電子状態間の強い結合により形成されたドレストポテンシャルにより誘起されたと解釈される。 (2)フェムト秒レーザー(100fs,800nm,10Hz)をArガスに集光し、多光子イオン化によって生成したArイオンの電子回折像を測定した。レーザー照射前後の電子回折像の小角散乱部には、イオン生成による散乱強度の増加が見られた。このイオン生成による散乱強度の増加傾向は、理論的に求めた0原子、Ne原子およびNa原子の結果と一致した。この結果は、強光子場中におけるイオン化を伴うダイナミクスを、パルス電子回折法により追跡できることを示している。 (3)さらに、ピコ秒領域の電子回折像を効率よく検出するために、高繰り返しフェムト秒レーザー(60fs,3kHz)を電子線発生に用いたパルス電子回折測定システムを構築した。パルスあたりの電子数を10^3以下の条件でパルス電子回折像を測定する準備が整った。我々が行った数値シミュレーションによれば、パルスあたりの電子数が10^3以下となると、電子パルスの時間幅として1ピコ秒以下が達成できることになる。
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