研究概要 |
本年度は,金属スルフィドクラスターの前駆体となる反応活性なシリルチオラート錯体の合成に成功し,その反応性とクラスター構築について検討した。 例えば,鉄(II)のアミド錯体Fe[N(SiMe_3)_2]_2と2倍当量のシリルチオールHSSiPh_3の反応から、四面体構造を持つFe(SSiPh_3)_2(CH_3CN)_2を無色結晶として単離した。この鉄錯体を等モル量の(Et_4N)_2[FeCl_4]と反応させ、チオラート配位子が架橋した2核錯体(Et_4N)_2[Fe_2(SSiPh_3)_2Cl_4]を,また、1/2倍当量の(PPh_4)_2[MoS_4]との反応からは(PPh_4)_2[MoS_4(Fe(SSiPh_3)_2)_2]を得た。いずれの反応においてもケイ素-硫黄結合切断反応は起こらなかった。 一方、シクロトリシラチアン(Me_2SiS)_3は3倍当量のアルキルリチウムRLi(R=Me,^tBu)と反応し、シリルチオラート配位子のリチウム塩LiSSiMe_2R(R=Me,^tBu)を生成する。このシリルチオラートリチウム塩とチタン錯体CP_2TiCl_2の反応から、シリルチオラート錯体CP_2Ti(SSiMe_2R)_2(R=Me,^tBu)を、鉄錯体Fe(CF_3S0_3)_2(CH_3CN)_2との反応からは、四面体構造を持つビスチオラート錯体Fe(SSiMe_2^tBu)_2(TMEDA)が得られた。同様に,Ni(SSiMe_2R)_2(dppe)とCpNi(SSiMe_2R)(PPh_3)(R=Me,^tBu)も合成した。 さらに,パラジウムジメチルシランジチオラート錯体のケイ素硫黄結合切断により異核金属硫黄クラスターを生成することを見い出した。すなわち,酢酸銅(I)をトリエチルホスフィン存在下(Me_2SiS)_3と反応させることで、環状CuS_3Si_2骨格を有するシランジチオラート錯体Cu_2(S_3Si_2Me_4)(PEt_3)_3を得た。この2核銅錯体と1.5倍当量のCpTiCl_3との反応から、キュバン型Ti_2Cu_2異核金属錯体Cp_2Ti_2Cu_2S_4(PEt_3)_2を、0.5倍当量のCpTiCl_3との反応からはTi_2Cu_68核クラスターCp_2Ti_2Cu_6S_6(PEt_3)_6を高収率で得た。また、0.5倍当量のTiCl_4(thf)_2の反応では4核錯体TiClCu_3S_3(PEt_3)_4が,Cp*MoCl_4との反応からは、MoCu_3クラスター[Cp*MoCu_3S_3Cl(PEt_3)_3][CuCl_2]が単離された。
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