研究概要 |
本基盤研究期間3年間において研究は順調に進行し、数多くの成果をあげた。 1.置換基に不飽和結合をもつアルキンチオサラート、ジインチオラート、ビニルチオラートと遷移金属(例えば、ジルコニウムやロジウムやニッケル)との錯形成に成功し、これらチオラート配位子の炭素-硫黄結合切断(生成)反応、炭素-炭素不飽和結合上での環化二量化反応や環化三量化反応を新たに見出した。 2.チオラート硫黄は末端配位および架橋配位によって金属原子に強く結合するのに対し、チオエーテル硫黄の配位力は弱いためにしばしば解離平衡が存在する。この配位力の異なる部位が共存するチオラート/チオエーテル混合配位子を用いることにより,鉄およびニッケルの巨大クラスターや1次元ポリマーを構築する新たな自己集積化反応を発見した。例えば鉄およびニッケルの一次元ポリマー錯体はこれまでの無機ポリマーと異なり、チオエーテル部位が可逆的に配位/脱離することによってトルエン等の溶媒にも可溶であり、かつ、再結晶によってポリマー構造を再生させることができる。 3.末端オキソ(イミド)/スルフィド配位子を有するタングステン錯体とルテニウム錯体を連結し,一連の異種金属複核錯体を合成し,これらの錯体が1気圧水素分子を常温でプロトンとヒドリドに開裂することを見いだした。性質の異なる二つの遷移金属が硫黄によって架橋された構造が,水素分子の特異なヘテロリティック開裂に重要な役割を果たすことを発見した。ヒドロゲナーゼ金属酵素の水素分子活性化反応の機構解明に新たな知見を与える反応系である。
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