研究概要 |
電子工学等の分野における次世代材料の開発を行う上で重要な課題の一つは、デバイスの高集積化と高機能化であり、また、高集積化と高機能化を効率よく進めることができれば、環境やエネルギー資源に対する負荷の少ない社会を実現することができると考えられる。本研究は、ナノ単位として機能する構造規制された遷移金属クラスター化合物を用い、それらを金属及び非金属原子・分子で連結・集積というこれまでにないアプローチで、次世代を担う分子デバイスの開発を目的としている。昨年度に引き続き,直鎖状白金同種・異種金属六核クラスターについて研究を行った。白金三核錯体[Pt_3(μ-dpmp)_2(RNC)_2](PF_6)_2(R=Xyl(1a),Mes(1b),tBu(1c))をNaBH_4で還元することにより濃青色クラスター(3)が,また,Pt_2Pd異種金属三核錯体[Pt_2Pd(μ-dpmp)_2(XylNC)_2](PF_6)_2(2)とNaOMeとの反応により濃緑色クラスター(4)が得られることを既に見いだしていたが,精度の高いX線結晶構造解析及び種々の分光分析・質量分析により[Pt_6(μ-H)(μ-dpmp)_4(RNC)_2](PF_6)_3(R=Xyl(3a),Mes(3b),tBu(3c))及び[Pt_4Pd_2(μ-H)(μ-dpmp)_4(XylNC)_2](PF_6)_3(4a)の組成を持ち,金属ー金属結合及び金属ー水素ー金属3中心結合により直鎖状六核構造を保持していることを確定した。錯体3aおよび4aは過剰量のモノイソニトリルと反応し,末端イソニトリル交換反応により一連の軸配位子置換体[Pt_4M_2(μ-H)(μ-dpmp)_4(RNC)_2](PF_6)_3(M=Pt(3);M=Pd, R=Mes(4b),M=Pd, R=tBu(4c))が得られる。六核錯体3a及び4aは電気化学的に興味深い性質を持ち容易に多段の酸化・還元を受ける。実際にクラスター3及び4の2電子酸化体[Pt_4M_2(μ-dpmp)_4(RNC)_2](PF_6)_4(M=Pt(5a),R=Xyl;M=Pd, R=Xyl(5b))の合成・単離に成功しその構造をX線結晶構造解析により明らかにした。その結果,酸化に伴いクラスター骨格は保持されているが,金属六核鎖の末端部から中央部への金属結合電子の流入が生じ,金属ー金属結合距離のダイナミックな変化が起こることが明らかとなった。また,種々の電気化学的分析により,このような酸化還元活性なナノ金属鎖をビスイソニトリルを介して金表面上に単分子自己集合膜を形成することが可能であり,直鎖状金属クラスターを基盤とした分子エレクトロニクスを開発する上で重要な知見と考えられる。今後は直鎖状金属鎖のさらなる伸長及び金属間の流動的に電子に基づく動的反応性・物性の開発について研究を進める予定である。
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