磁性素材とは無縁のものと思われていた有機物質に強磁性的性質を付加しようとする分子磁性研究が、我が国で独創的な進歩を遂げた。このような静的な強磁性を追い求めた研究が一段落した今、分子磁性体の最大の特長である動的特性を突詰め、次世代の分子メモリーやスイッチへの展開を模索すべき段階に到達している。 これまでの研究により、強い分子間相互作用と多次元的な結晶構造を有する環状チオアミル(SN)ラジカルにおいて、磁気的室温双安定性やこれに付随する光誘起相転移、分子強磁性転移などを見出している。今年度は、研究対象をチアジアゾール環を有するポルフィラジン化合物にまで広げ、中心金属に依存する多彩な結晶構造を得ることができた。 一方、単分子磁石研究においては、Mn12の磁気特性や量子効果の起源を探るため、Mn11Crを合成し、磁気特性を調べた。構造解析やX線吸収スペクトルによってCrサイトを特定し、磁性との相関を調べたところ、Mn12と非常に近い磁気構造を持つことが分かった。Mn12/Mn11Cr混晶を用いることにより、両者の磁化の個別制御や、トンネル効果にバイアスされた量子磁化トンネリングを見出した。
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