葉緑体光定位運動の意義と機構の解析

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13304061
• 研究機関: 東京都立大学
• 研究代表者: 和田 正三 東京都立大学, 理学研究科, 教授 (60011681)
• 研究分担者: 鐘ヶ江 健 東京都立大学, 理学研究科, 助手 (70264588)
• キーワード: 葉緑体 / 光定位運動 / シダ / シロイヌナズナ / フォトトロピン / フィトクロム / 光受容体 / アクチン

研究概要

葉緑体は,葉に降り注ぐ光の強弱によって細胞内でその位置を変える.弱光下では細胞の表面に位置して光合成を活発に行い(集合反応),強光下では葉緑体の光傷害を避けるために細胞の側壁に移動する(逃避反応).この現象は光合成を効率的に行うための反応であると言われている。我々は強光下での逃避反応が欠損した突然変異株を選抜し、強光反応ができない植物では葉緑体及び葉に大きな障害が起こり、葉が枯死することを昨年度明らかにした。今年度はさらに、葉緑体が逃避する移動速度は光強度が強いほど速くなることを明らかにした。
このことは、葉緑体は光の強弱を認識しており、しかも光が強ければ強いほど、障害をより早く回避し、早急な逃避をするための何らかの運動機構をそなえていることを示している。
これらの運動機構を明らかにするため、葉緑体の運動を制御する因子の探索・同定、さらにその機能解析を行った。葉緑体運動が全く欠損したchup1突然変異株を選抜し、その原因遺伝子がアクチン結合能力のあるタンパク質であることを明らかにした。この遺伝子がコードするタンパク質はN末端側に疎水性のアミノ酸部分を持っており膜結合タンパク質であることが予想された。そこでGFPを結合したchup複合タンパク質を突然変異株中で発現させたが、機能は回復するものも、GFPの蛍光は見えず、細胞内分布は不明であった。そのためN末端部のみとGFPを結合させ、同様な実験を行った結果、chupは葉緑体外膜上に存在することが強く示唆された。現在は生化学的手法により葉緑体膜との関係を調べている。

研究成果

• [文献書誌] Kagawa T., Wada M.: "Chloroplast avoidance movement rate is fluence dependent."Photo chemical & Photo biological Sciences. (in press). (2004)
• [文献書誌] Kagawa T, Kasahara M, Abe T, Yoshida S, Wada M: "Functional analysis of Acphot2 using mutants deficient in blue light-induced chloroplast avoidance movement of the fern Adiantum capillus-veneris L."Plant Cell Physiology. (in press). (2004)
• [文献書誌] Oikawa K, Kasahara M, Kiyosue T, Kagawa T, Suetsugu F, 他: "CHLOROPLAST UNUSUAL POSITIONING1 Is Essential for Proper Chloroplast Positioning"Plant Cell. 15. 2805-2815 (2003)
• [文献書誌] Sato Y, Wada M, Kadota A: "Accumulation response of chloroplasts induced by mechanical stimulation in bryophyte cells"Planta. 216. 792-777 (2003)
• [文献書誌] Iwata T, Nozaki D, Tokutomi S, Kagawa M, Wada M, Kandori H: "Light-induced structural changes in the LOV2 domain of Adiantum phytochrome3 studied by low-temperature FTIR and UV-visible spectroscopy"Biochemistry. 42. 8183-8191 (2003)
• [文献書誌] Wada M, Kagawa T, Sato Y: "Chloroplast movement"Annu.Review of Plant Biology. 54. 455-468 (2003)