研究概要 |
現代型ホモサピエンスの拡散を明らかにする上で世界各地の人類集団の遺伝的特性を知ることは不可欠である。しかし,過去に生じた集団の移動や拡散・古代人類集団間の遺伝的混合を無視して現代人類集団間の遺伝的類縁関係を古代人類集団へと単純に展開する(古代と現代の間の時間をゼロとみなす)ことは出来ない。現代の人類集団間の遺伝的類縁関係をもってして,それら人類集団の起源や系統を論ずる(現代人のデータから古代を類推する)のではなく,『過去』を直接分析する必然がある。本研究申請代表者・植田は,この10年あまりの間に,古人骨試料から遺伝情報物質であるDNAを取り出し直接分析する(それらの塩基配列を明らかにする)方法を開発・確立し,過去の試料を遺伝的解析の直接の対象とすることを可能にした。そこで本研究では東アジアならびにアメリカ大陸から出土した古人骨試料からDNAを抽出・精製し,それらDNAの塩基配列を決定することにより,東アジアならびにアメリカ大陸に古代に生きていた人々の遺伝的多様性を直接明らかにし,古代から現代に至る人類諸集団間における遺伝的類縁度を推定し,東アジアと新大陸への人類の拡散に関する理解の飛躍的進展をはかることを目的に研究を進めた。 本年度は中国・黄河下流域・商代以前(いわゆる夏代)の古人骨試料を収集した。収集した古人骨試料について,DNA分析のための前処理としての古人骨試料のクリーニング作業ならびに古人骨試料からのDNAの抽出とその精製をおこなった。
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