研究概要 |
本申請研究ではDNA鎖の物性物理を明らかにするとともに,DNA鎖を用いたナノアクチュエーターの開発を行った。 1.光の放射圧を駆動力としてDNA鎖を伸縮させるためには,基板上へ固定化したDNA鎖の末端に金コロイドを修飾する必要がある。金コロイドおよび金薄膜に対するDNA分子の接着はビオチン/ストレプトアビジンの抗原抗体反応,およびチオール基を利用した化学結合により行い,金薄膜上における金コロイド修飾DNA分子の固定化を確認した。 2.Nd:YAGレーザーと光学顕微鏡からなる光マニピュレーション装置を用いたDNA伸縮操作システムを開発した。本システムを用いて,水溶液中でλDNAのマニピュレーション操作を行ったところ,光を用いてDNA分子を捕捉,運動操作可能であることを見出した。 3.金薄膜-金コロイド間の距離を光によって制御し,それぞれにおける表面プラズモン共鳴(SPR)信号を検出するために,He-Neレーザーを光源としたSPR測定システムを開発した。金薄膜上に固定化した金コロイド修飾DNA分子の挙動を観察したところ,一本鎖と二本鎖のDNA分子ではSPR信号に顕著な差が現れることを確認し,鎖状態によってDNA分子の物性(長さや弾性)に違いが生じることが示唆された。 4.DNA単分子層の表面に位置する金コロイド上にさらに金コロイド修飾DNA分子を積層させた系を構築した。本法により現在までのところDNA5分子積層を実現しているが、原理的には更なる積層が可能である。積層数に応じて顕著な正のSPR角度シフトが観測され、多層化に伴うSPR応答の増強が示された。SPR応答の変化はDNA分子の長さ等により異なり、DNAの物理的性質を反映している。したがって、DNAの多層化に伴うSPR応答の増大は、多層化がナノアクチュエーターの駆動に有効にはたらくことを示唆する結果であり、本研究はDNA分子がナノアクチュエーター材料として有為であることを示したといえる。
|