研究概要 |
本研究は、全国の公的機関所蔵の近世建築の図面類を対象に行った「近世指図の作図技法・描法の展開に関する研究」(課題番号09305040)を進めるべく、対象を寺社や個人の所蔵する指図類の残存状況を調査し、データベース化を進めると共に、指図の時代判定指標に、料紙の繊維の拡大写真(100倍程度)を簡便に非破壊で撮影する装置を開発し、料紙の繊維や染料・顔料・填料から時代推定が可能かを探ることを目的の第2とした。 その結果得られた知見の大要は次の通りである。 1,社寺の所有にかかる指図類は多くはなく、深溝松平藩の江戸屋敷を中心とする指図類が菩提寺の島原本光寺に68枚余り所蔵されていること、奥平藩の菩提寺大分県中津市の自性寺に、200点を越す建地割を中心とした図面類が所蔵されていることが明らかとなった。しかし、これらの指図はいずれも古書肆から購入した物が大部分で、菩提寺等の大名関係社寺が藩から、建築関係図書を受け継ぐ習慣はなかった物と見なければならない。 2,一方、幕府の作事組織が関わった寺社には、比較的多くの指図を中心とする建築関係図書が所蔵されていた。中でも注目されるのは出雲大社と日御碕神社で、整理はあまり進んでいないが、建地割を中心とする、図面類が多数残されていた。 3,指図の作成年次の推定指標にいては、装置の完成に手間取り、本光寺所蔵指図を対象として、拡大写真による推定法を試みたのみの結果であるが、少なくとも赤の顔料が、時代推定の指標になりうることが明らかになった。 なお、多くの作成時期の分かる指図による比較検討の必要性が、今後の課題として残された。
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