研究概要 |
1.配向性を制御させ、粒界を化学修飾した超伝導膜の作成: 前年度に引き続き結晶成長を実施するが、とくにd波超伝導性は対破壊の方向依存性に影響することが予測されるので、方位の定まった結晶粒界で電子構造を調べるためSrTiO_3双結晶を用いた試料作成をゾル・ゲル法およびPLD法で行ってきた。その結果の一部は以下のとおりである。 CSD(Chemical Solution Deposition)法によるBi2223薄膜の作製を行ってきた。大まかな作製手順は、「1.塗布溶液の調製→2.基板への塗布→3.仮焼→4.本焼」となっている。各工程について具体的に述べる。 (1)原料となるBi, Pb, Sr, Ca, Cuの酢酸塩を、元素の比がこの順に1.6:0.4:1.6:2.0:2.8となるように秤量し、酢酸ベースの溶液に溶解させた後80℃で還流して反応させ、濃縮した後に界面活性剤を加えて塗布溶液とする。 (2)基板として、表面が平坦でかつ熱処理中に酸化物と反応しないMgOの上にAgを蒸着したものを用い、スピンコート法により塗布する。 (3)大気中700℃で1時間保持し、仮焼膜を作製する。塗布及び仮焼を繰り返して適当な厚さの膜を焼成する。 (4)大気中840℃で100時間保持し、超電導酸化物Bi2223を得る。ここで熱処理中の元素の飛散(特にPbとBi)を防ぐため、Agで作製Lたケースの中で本焼を行う。 結果として、Bi2223の体積分率が90%以上のc軸配向した膜が得られた。膜厚はおよそ1μm程度である。表面のSEM写真から板状2223相と針(棒)状Ca_2CuOの2相から成ることがわかった。 2.臨界電流密度測定: 統計分布をとるため、一つの試料中の微小領域の電流・電圧特性を多数測定するためリソグラフィーでパターンニングした試料でJ-E特性を現有装置で実施することを計画し、現在までに装置の組立てを完了した。 3.理論計算とその検証および多結晶材における輸送特性改良の指針の提案: Weak Link pathモデルによる理論計算により、鋭いJ-E特性が得られる条件を理論的に究明し、そのような理論的構造を如何に実現するかを検討する。前年度で粒界の電子構造制御が可能になるので、知見をもとにパーコレーションパスの変更を実験的に確認する。さらに結晶粒界の電子構造の制御により巨視的な輸送特性の改良がどのように可能かその指針を提案する。その成果をまとめた論文がPhys. Revに最近発表されることになった。
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