本研究は、薄膜材料の光学的性質が水素化に伴って変化する現象を検出原理とする水素ガスセンサの応答・回復速度、感度、耐久性を向上させるための設計指針を提供することを目的としている。これまでの研究で、Pd単層薄膜を用いたセンサは優れた応答・回復速度を有することがわかっている。このセンサの感度は、膜厚の増加とともに増加するが、Pdは、膜厚が数十nm以上になると水素化により約10%の体積膨張を起こすため、基板にガラスを用いた場合、膜が基板から剥がれやすくなるという耐久性の問題を有している。 そこで、今年度は膜厚が数十nm以上のPd薄膜を用いたセンサの耐久性を向上させるために、金属であるPd薄膜とセラミックスであるガラス基板の間に有機材料であるステアリン酸(SA : Stearic Acid)をバッファー層として挿入し、この素子の水素検知特性を検討した。また、基板の厚さが水素検知特性に及ぼす影響についても検討した。 SAをバッファー層として用いることによって、水素化時におけるPd薄膜表面の形態変化が抑制され、耐久性の高いセンサ試料が得られることがわかった。また、薄いガラス基板を用いた場合、基板自身がPd薄膜の膨張・収縮に対応して変形するために接合界面での応力が緩和され、Pd薄膜の皺や剥離が抑制されることがわかった。このことから、薄いガラス基板を用いることによっても耐久性の高いセンサ試料が得られることがわかった。さらに、薄いガラス基板上にSAをバッファー層として堆積させた素子は、格段に高い感度と耐久性を示すことがわかった。バッファー層の効果と薄いガラス基板の効果を両方用いることによって、バッファー層や薄いガラス基板をそれぞれ単体で用いたセンサ試料よりも優れたセンサ試料を得られることがわかった。
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