本研究では、Red clover necrotic mosaic virus(RCNMV)の翻訳、複製および感染機構を解析し、以下の研究成果を得た。1)RCNMVのゲノムRNA1とRNA2の5'末端にはキャップ構造が存在せず、ウイルスタンパク質はキャップ非依存的に翻訳された。RNA1のキャップ非依存性翻訳には3'非翻訳領域(3'-UTR)に存在するステムループ(SL)構造が重要であった。一方、RNA2の翻訳機構はRNA1と異なり、翻訳にはRNA1のコードする複製酵素成分タンパク質(p27とp88)を必要とし、RNA2の複製とリンクしていた。2)RNA2の複製には5'-UTRと3'-UTR以外に、RNA2のORF内に存在するSL構造が重要であった。また、このSLは、RNA1にコードされる外被タンパク質の発現でも重要な役割を果たし、それにはループの配列以外に構造そのものが重要であることが分かった。3)RNA1は、RNAサイレンシング抑制活性を持ち、その活性には複製酵素成分タンパク質(p27とp88)とマイナス鎖合成の鋳型となりえるRCNMV RNAを必要とした。このことから、RCNMV RNA合成機構とRNAサイレンシング機構に関連性が示唆され、これらの機構に共通因子を利用している可能性が強く示唆された。RCNMVRNA複製酵素複合体の宿主因子およびRNAサイレンシング装置構成因子の同定が期待される。以上のように、RCNMVは翻訳、RNA複製、RNAサイレンシングに関わる宿主因子を巧みに利用して遺伝子発現制御を行うとともに、植物のウイルス抵抗性を抑制していることが明らかとなった。また、これらの結果は、真核生物の新たな翻訳制御機構の解明にもつながると考えられる。
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