DNA多型解析と安定同位体トレーサー試験による森林成立・再生過程の解明

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13306011
• 研究機関: 東京大学
• 研究代表者: 宝月 岱造 東京大学, 大学院・農学生命科学研究科, 教授 (10107170)
• 研究分担者: 奈良 一秀 東京大学, アジア生物資源環境研究センター, 助手 (60270899) ; 福田 健二 東京大学, 大学院・新領域創成科学研究科, 助教授 (30208954) ; 小島 克己 東京大学, アジア生物資源環境研究センター, 助教授 (80211895)
• キーワード: 一次遷移 / マイクロサテライト(SSR) / 先駆植物 / 外生菌根菌 / 森林再生 / 富士山 / 河川敷 / 熱帯林

研究概要

本研究では、先駆樹木種の更新過程と外生菌根菌による共生機能に焦点を合わせ、森林成立(一次遷移)地、森林更新(二次遷移)地及び人工造林地における先駆樹木と外生菌根菌の繁殖特性を、マイクロサテライト(SSR)多型解析等により明らかにする。今年度も、マイクロサテライトマーカー等を用いて、設定した試験地における樹木種と外生菌根菌の繁殖様式の解析を進めた。具体的には、(1)一次遷移が進む富士山東南斜面にミヤマヤナギの苗を植え、その後の外生菌根菌の感染を、菌根形成率と感染菌種の観点から追跡した。その結果、既に定着しているミヤマヤナギに共生する菌根菌が、新たな実生に感染して菌根を形成することが解った。言い換えると、既存のミヤマヤナギが菌根菌の接種源となって、新たな実生の成長や定着を促進している可能性が、世界で初めて実験的に示された。(2)多摩川河川敷ニセアカシア林の花粉親解析を行った。その結果、花粉親がいくつかのジェネットに限られている場合と、比較的多数のジェネットに同定される場合とがあり、花粉散布機構は必ずしも単純ではないことが明らかになった。また、自家受精率もジェネット毎に大きく異なっていることが解った。(3)タイ国のマツ林に発生するコツブタケ属菌周辺の地下部群集構造を、DNA多型解析により解析した。その結果、子実体を発生する外生菌根菌は地下部では子実体直下の比較的狭い範囲でしか繁殖していないことが解った。(4)沖縄マングローブ林におけるヤエヤマヒルギ個体群間の遺伝的分化の実体を解析した。その結果、個体群間の遺伝的分化の程度が大きいこと、また、ホモ接合体が過剰なことが解った。このことは、ヤエヤマヒルギの繁殖体の散布範囲が比較的狭いため、および、自家受精率が多いためと推定される。

研究成果

• [文献書誌] Lian C, et al.: "Development of microsatellite markers from an ectomycorrhizal fungus, Tricholoma matsutake, by an ISSR-suppression-PCR method."Mycorrhiza. 13. 27-31 (2003)
• [文献書誌] Nara, et al.: "Ectomycorrhizal sporocarp succession and production during early primary succession on Mt.Fuji."New Phytologist. 158. 193-206 (2003)
• [文献書誌] Lian C, et al.: "Genetic structure and reproduction dynamics of Salix reinii during primary succession on Mt.Fuji, as revealed by nuclear and chloroplast microsatellite analysis."Molecular Ecology. 12. 609-618 (2003)
• [文献書誌] Zhou Z, et al.: "Patch establishment and development of a clonal plant, Polygonum cuspidatum, on Mt.Fujiv"Molecular Ecology. 12. 1361-1373 (2003)
• [文献書誌] Nara K, et al.: "Underground primary succession of ectomycorrhizal fungi in a volcanic desert on Mount Fuji."New Phytologist. 159. 743-756 (2003)
• [文献書誌] Kanchanaprayudh J, et al.: "Molecular phylogeny of ectomycorrhizal Pisolithus fungi associated with pine, dipterocarp, and eucalyptus trees in Thailand."Mycoscience. 44. 287-294 (2003)
• [文献書誌] Kanchanaprayudh J, et al.: "A new species of ectomycorrhizal Pisolithus fungus associated with dipterocarps in Thailand."Mycotaxon. (in press). (2003)
• [文献書誌] Nakagawa M, et al.: "The regeneration characteristics of Picea jezoensis and Abies sachalinensis on cut stumps in the sub-boreal forests of Hokkaido Tokyo University Forest."Forest.Forest Ecology and Management. 180. 353-359 (2003)
• [文献書誌] Nara K, Hogetsu T: "Ectomycorrhizal fungi on established shrubs facilitate subsequent seedling establishment of successional plant species."Ecology. (in press). (2004)