研究概要 |
本研究は、広汎な意味合いを包含する神経再生の領域のなかでも、損傷神経の「温存再生」に焦点を当て、その分子メカニズムの解明のための基礎的研究のボトムアップから、治療への何らかの糸口をつかむことまでの研究を統合的に強力に推進することが目的である。このため、以下の3つの柱での研究を展開した。(1)損傷神経の生存や軸索再生にかかる遺伝子のさらなる探索。(2)アデノウイルスによる遺伝子発現系を用いた、再生関連分子の機能解析。(3)得られた分子を生体へ遺伝子導入することで機能回復を図り、将来的な遺伝子治療の可能性を提示する。その結果、AIGP, ADAMTS-1,CRMP2をはじめ多くの神経再生関連分子が同定できた。また、神経再生に関連する転写因子としてATF3の重要性を明確にし、その機能的意義についても解明した。さらに、神経損傷特異的遺伝子発現制御メカニズムの解明のため、DINEのプロモーターの解析を行なった。DINEのプロモーターを用いることにより、特定の遺伝子を損傷神経細胞に特異的に発現させることが可能になった。これにより、マウス脳梗塞モデルで梗塞領域を減少させることに成功した。また、遺伝子探索で得られた再生関連遺伝子を、アデノウイルスベクターにより神経細胞種特異的に導入することで、損傷後の神経細胞死防御や軸索伸展促進が可能になった。これにより神経再生関連遺伝子の機能的な意義がラットなどの実験動物で解析できるようになった。本研究は、中枢神経の再生をめざすうえで多くの重要な情報や、それによる新たな切り口の中枢神経再生治療の可能性を提示した。また、その過程で新たな分子の生物学的な機能も解明できた。今後、本研究の成果は神経再生医学の領域に大きな貢献をもたらすと期待される。
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