研究概要 |
RASによる悪性転換を抑制する遺伝子として単離された新規遺伝子RECKは、細胞膜結合性のマトリックス・メタロプロテアーゼ(MMP)阻害因子をコードし、RASシグナルによって転写レベルで負の制御を受ける(高橋ら、PNAS95,13221-13226,1998)。RECK遺伝子を欠損させたマウスでは、初期発生および血管ネットワークの形成は進行するが、胎生10.5日頃に出血を伴った致死形質が表れる。この時期の正常マウス胚では血管平滑筋にRECKの高い発現が見られる事から、この分子が血管壁細胞外マトリックスの構築/維持に重要な役割を演じている可能性が強く示唆された(呉ら、Cell、2001)。この仮説をさらに分子レベルで検証し、血管発生の新たな局面に光を当てると共に、RECKがRASシグナルによって制御される事の血管発生における意義を明らかにするために、以下のような実験を行った: 1)免疫染色法および電子顕微鏡観察によって、RECK欠損マウスでは繊維状コラーゲンが著しく減少していることが示唆された。 2)RECK欠損およびMMP-2欠損を持つ二重変異マウス作成したところ、死期が0.5日遅れ、組織および細胞マトリックスの破綻が顕著に緩和されることが見出された。すなわち、生体内におけるRECKとMMP-2の相互作用が示された。 3)HT1080細胞をヌードマウス皮下に移植するという系において、RECKを発現させておくと腫瘍血管の分枝が著しく阻害されるという現象が見出された(以上、呉ら、Cell、2001)。 5)肝癌患者の癌部および周辺の非癌部におけるRECKの発現量を調べたところ、癌部でのRECKの発現量と患者の生存期間との間に有意な相関性が見出された(古元ら、Hepatology、2001)。
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