RASによる悪性転換を抑制する遺伝子として単離されたRECKは、細胞膜結合性のマトリックス・メタロプロテアーゼ(MMP)阻害因子をコードし、Rasシグナルによって転写レベルで負の制御を受ける。RECK遺伝子を欠損させたマウスでは、初期発生および血管ネットワークの形成は進行するが、胎生10.5日頃に出血を伴った致死形質が表れる。この時期の正常マウス胚では血管平滑筋にRECKの高い発現が見られる事から、この分子が血管壁の細胞外マトリックス構築/維持に重要な役割を演じている可能性が示唆された。一方、RECKの発現が低いヒト線維肉腫細胞株HRT1080にRECKを強制発現させると、浸潤、転移、血管新生(分枝)などの抑制が見られることから、RECKの発現低下が腫瘍血管新生に関係する可能性が示唆された。しかし、RECKを強制発現させたHT1080細胞にさらにMMP-2、MMP-9、MT1-MMP、あるいはVEGF-165を強制発現させても血管新生(分枝)の回復は見られなかった。従って、RECKの作用が、これらの分子の単純な阻害では説明できない事が分かった。RECK遺伝子プロモーターの下流にSEAP接続したリポータを用いて、RECK遺伝子を活性化する分子のスクリーニングを開始した。一方、免疫染色およびin situ hybridization法により、RECKが発生中の軟骨で高く発現されている事が見出された。培養軟骨細胞においてもRECKの発現は高く、軟骨分化を誘導できるATDC5細胞においては、分化に伴って徐々にRECKの発現が高まることが見出された。しかし、軟骨分化の初期(condensation)においては、むしろMMPの活性が重要であることも示唆された(近藤ら、投稿準備中)。今後、軟骨への血管侵入や骨化とRECKとの関わりについて解析を進める。
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