研究概要 |
本研究では,肝細胞に感染した肝炎ウイルスの産生する蛋白が直接的に肝細胞の死および生に至るシグナルに与える影響を分子レベルで検討し,肝炎ウイルスによる肝細胞障害機序を解明することを目的としている. まず,B型肝炎ウイルス(HBV)が産生する6種の蛋白,C型肝炎ウイルス(HCV)が産生する9種の蛋白,デルタ型肝炎ウイルス(HDV)の産生する2種の蛋白,合計17種のウイルス蛋白が,SRE, SRF, AP-1, CRE, NF-κB, HSE, ISRE, GRE, p53などの細胞の生死に関わるシグナル伝達に与える影響をレポーターアッセイにて検討した.これら組み合わせから,HCV core蛋白がNF-κBを強く活性化することが明らかになった.さらに,HCV core蛋白によるNF-κBの活性化にはC端側20アミノ酸が泌須であること,その活性化機序として,IKKβ, TRAF2/6を介していることを明らかとした.また,HCV core蛋白は,実際にNF-κBを介してIL-8プロモーターを活性化し,免疫系を介さずに炎症を惹起している可能性があると考えられた.また,レポーターアッセイにより,HCV NS4AおよびNS4B蛋白は,非特異的に翻訳過程を阻害する可能性が示され,bi-cistronic reporterを用いた実験によりHCVも他のウイルスと同様に宿主の蛋白合成を阻害するtranslational shutoff機構を有していることが明らかとなった.また,HDVラージ抗原がHBx蛋白と共同して相乗的にSREを活性化することを見出した.その機序として,HDVラージ抗原がSREに結合するSRFを,HBx蛋白がSREに結合するElk-1を活性化するためと考えられた.今後,これら細胞内シグナル伝達系の活性化をもたらす肝炎ウイルス蛋白と宿主細胞内蛋白との相互作用を明らかにしていく.
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