研究概要 |
本研究では,肝細胞に感染した肝炎ウイルスの産生する蛋白が直接的に肝細胞の死および生に至るシグナルに与える影響を分子レベルで検討し,肝炎ウイルスによる肝細胞障害機序を解明することを目的としている.1)C型肝炎ウイルス(HCV)NS5A蛋白が,p53と結合し,p53による転写活性化を阻害していることを見出した.その結果,G1 arrestを起こすp21発現を減少させ,またp53により惹起されるアポトーシスを阻害していた.その機序として,NS5Aがp53と直接結合するのみならず,p53の転写活性可能に必要な基本転写因子であるhTAF_<II>32と結合することを明らかにした.2)B型肝炎ウイルス(HBV), HCVそれぞれのウイルス全蛋白を発現する細胞株を用いて,cDNA arrayを行うことにより,HBVとHCVが産生するウイルス蛋白が細胞に与える影響の違いを明らかにした.3)インターフェロンがHCVのIRESに作用し,抗HCV効果を発揮することを明らかにした.4)デルタ型肝炎ウイルス(HDV)ラージ抗原がHBx蛋白と共同して相乗的にSREを活性化することを報告したが,HDVラージ抗原がB型肝炎ウイルス(HBV)のSプロモーターを活性化することを見出した.HDVは,HBs抗原を自身の被膜として利用しており,その発現を増強することは,HDV粒子産生の観点からも理にかなっていると考えられる.引き続き,生と死の細胞内シグナル伝達系に影響する肝炎ウイルス蛋白と宿主細胞内蛋白との相互作用を明らかにしていく.
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