研究概要 |
本研究では,肝細胞に感染した肝炎ウイルスの産生する蛋白が直接的に肝細胞の死および生に至るシグナルに与える影響を分子レベルで検討し,肝炎ウイルスによる肝細胞障害機序を解明することを目的としている.1)C型肝炎ウイルスコア蛋白が,MAP kinaseのシグナル伝達経路の活性化を介して,TGF-βの発現を惹起していることを見出した.従来,C型肝炎における肝線維化の進行は,炎症の結果であると考えられてきたが,C型肝炎ウイルス蛋白が直接肝線維化を引き起こし,肝硬変を引き起こしている可能性を示した.2)C型肝炎ウイルスのNS5B蛋白が,innate immunityを活性化することを見出した.肝細胞内で発現されたC型肝炎ウイルスNS5B蛋白は,toll-like receptor 3からTRIF, TBK1, IKKεにいたる系を活性化し,IRF3のリン酸化,核内移行を惹起し,最終的にIFN-βの発現を誘導することを明らかにした.3)C型肝炎ウイルスNS3蛋白がinnate immunityの活性化を阻害することを見出した.すなわち,C型肝炎ウイルス感染は,NS5BのRNA dependent RNA polymerase活性により複製を行い,それに伴い生成される複製中間体である二重鎖RNAによりinnate immunityの活性化を誘導するが,それをNS3が効率的にブロックし,持続感染に機能しているものと考えられる.4)A型肝炎ウイルスのVP3蛋白が,細胞内のMAP kinase cascadeを介して,serum response element (SRE)を活性化していることを見出した.A型肝炎の病態形成に関わっていることが予測される.引き続き,生と死の細胞内シグナル伝達系に影響する肝炎ウイルス蛋白と宿主細胞内蛋白との相互作用を明らかにしていく.
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