研究概要 |
ラット一過性前脳虚血により生じる海馬遅発性神経細胞死(6分虚血)、および同部に短時間(2分)虚血を前処置することによって誘導される虚血耐性現象をモデルとし、その病態を明らかにするために遣伝子発現情報解析を行った。昨年度は、8000個の遺伝子について基本的な解析を行い、遺伝子発現が上昇したものは246個、低下したものは213個と判明した。今年度、個別遺伝子について機能分類や類型化を詳細に行い、虚血耐性や細胞死との関連を検索した。その結果、虚血耐性ではMAP kinase情報伝達系、熱ショック蛋白遺伝子の発現冗進が最も著名な変化として抽出された。一方、細胞死の条件(6分虚血)では、各種の転写因子、特に細胞死を誘導するものの発現元進が著しく、Caspase-2,3などのアポトーシス関連プロテアーゼも発現が亢進していた。一方、細胞の増殖や生存に必要とされるPI3 kinase、DAG/PKCなどの情報伝達に関与している遺伝子の発現が抑制されており、特に24時間以降で強く持続的に続いていた。これらの変化は、生存促進遺伝子の発現抑制、細胞死誘導遺伝子の発現亢進が、虚血後の細胞死と強く関連していることを示唆していると考えられた。ERG2,Homer IC, Caspase2,BTG2,TIEGの遺伝子に着目してin situ hybridizationによる検討を行ったところ、上記解析結果と同様の変化が5個中4個で確認され、遺伝子発現解析の信頼性が確認された。これらの結果に基づき、MAP kinase情報伝達系に特に注目し、小胞体ストレスとの関連を中心に解析を加える予定である。
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