研究概要 |
体系的発現情報解析を用いた新たなる手法を導入して、脳虚血後の遅発性脳障害及び虚血耐性獲得において特にその発現レベルが顕著に変動する遺伝子群を同定し、虚血性脳障害を分子レベルで病態解析応用可能な治療法への方向づけを行うことを目的として研究を行った。 ラット一過性前脳虚血により生じる海馬遅発性神経細胞死、および同部に短時間虚血を前処置することによって誘導される虚血耐性現象をモデルとし、遺伝子発現情報解析を行った。海馬CA1領域を選択に抽出し約8000個の遺伝子についてGenechipを用いて解析した結果、遺伝子発現が上昇したものは246個、低下したものは213個と判明した。個別遺伝子についてComputer databaseに基づきその類型化を行った結果、虚血耐性ではMAP kinase情報伝達系、熱ショック蛋白遺伝子の発現亢進が最も著名な変化として抽出された。一方、細胞死の条件では、各種の転写因子、特に細胞死を誘導するものの発現亢進が著しく、Caspase-2, 3などのアポトーシス関連プロテアーゼも発現が亢進していた。一方、細胞の増殖や生存に必要とされるPI3 kinase、DAG/PKCなどの情報伝達に関与している遺伝子の発現が抑制されており、特に24時間以降で強く持続的に続いていた。これらの変化は、生存促進遺伝子の発現抑制、細胞死誘導遺伝子の発現亢進が、虚血後の細胞死と強く関連していることを示唆していると考えられた。ERG2, Homer 1C, Caspase2, BTG2, TIEGの遺伝子に着目してin situ hybridizationによる検討を行ったところ、上記解析結果と同様の変化が5個中4個で確認され、遺伝子発現解析の信頼性が確認された。脳虚血後の遺伝子発現について、虚血耐性との関連も含めての詳細な検討は報告が無く、本研究で得られた情報は今後の研究に大きな寄与をするものと考えられる。
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