損傷脊髄の再生を目的とした神経幹細胞移植を確立するために、ラットおよびサルを用いた基礎的研究を行った。これまでのわれわれの損傷脊髄内の微小環境に関する研究より、損傷直後よりも損傷後亜急性期(損傷後1〜2週)のほうが脊髄内の環境は移植に適しているとの考えから、成体ラット脊髄に損傷後9日目にラット胎児由来神経幹細胞を移植した。移植細胞は生存・移動し、ニューロンへと分化することが明らかになった。さらに移植後は有意な上肢運動機能の改善がみられた。これらの結果を踏まえて臨床応用により一歩近づけるために、ヒトと同じ霊長類であるサル損傷脊髄に対するヒト神経幹細胞移植を行った。頚髄損傷モデルは、コモンマーモセットを用いて重錘落下法に準じて作成した。損傷後9日目に、BrdUで標識したヒト胎児由来神経幹細胞を損傷中心部の空洞内に注入した。損傷後の運動機能評価は、赤外線センサーによる三次元的運動量モニタリングと上肢筋力測定を行った。移植後8週に経心臓的還流固定を行い損傷脊髄の組織学的検索を行った。 損傷中心部の空洞周囲にはBrdU陽性の移植細胞が多数存在した。免疫二重染色の結果、これら移植細胞が損傷脊髄内の微小環境に応じてニューロン、オリゴデンドロサイト、アストロサイトに分化することが明らかになった。運動機能評価でも、移植群で有意な自発運動量の増加と上肢筋力の改善がみられた。
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