われわれは脊髄損傷に対する神経幹細胞移植の有効性を報告してきた。一方、損傷部脊髄内にはグリア瘢痕組織が形成され、その中には種々軸索伸展阻害因子が存在することが知られている。現在、脊髄損傷に苦しむ多くの脊髄損傷患者が慢性期であることを考慮すると、この軸索伸展阻害因子の克服が必須と言える。近年、軸索伸展伸展阻害因子であるコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)を分解するChondroitinase ABC(C-ABC)が損傷脊髄内の軸索再生を促進する報告がされ注目を集めている。そこで、脊髄損傷に対するChondroitinase ABC(C-ABC)を併用した神経幹細胞移植を確立するために、1)C-ABCが神経幹細胞に与える影響をin vitroで検討し、2)損傷脊髄に対するC-ABCとラット神経幹細胞の併用による効果を調べた。 In vitroではCSPGをcoatingしたwell上で神経幹細胞の移動性が著しく阻害されたが、生存や分化に影響はみられなかった。そのCSPGの神経幹細胞の移動抑制効果はC-ABC処理により阻害され、神経幹細胞の移動性は回復した。次にIn vivoでは損傷後1週からのC-ABCのくも膜下腔持続注入により、損傷部脊髄内のCSPGが分解されほぼ正常脊髄と同レベルまで分解されていた。さらにC-ABC投与後1週目に神経幹細胞移植を行うと、グリア瘢痕組織内のCSPGが分解されたことにより、移植神経幹細胞は良好にホスト脊髄内に移動し、損傷部脊髄内の再生軸索も神経幹細胞移植群のみと比較して有意に多数観察出来た。以上の結果より、脊髄損傷に対するC-ABC持続投与と神経幹細胞移植の併用療法は、損傷部のグリア瘢痕組織内に存在するCSPGを化学的に除去することにより移植細胞の移動を促進し、軸索の再生を促進することから、脊髄損傷、特に慢性期脊髄損傷に対する有効な治療法となりうると考えられた。
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