麻酔科領域で用いられている薬物により誘発される遺伝子発現の変化につい検討することを目的として、次の研究を行った。 麻薬は疼痛治療の目的で古くから用いられている強力な鎮痛薬であるが、その使用により耐性や依存性が成立することが大きな欠点である。耐性や依存性には遺伝子発現の変化が関与している可能性がある。我々はCHO細胞にオピオイド受容体cDNAを導入して同受容体を大量発現させ、アゴニスト刺激により惹起される遺伝子発現を検索した。その結果、オピオイド受容体の活性化により、immediate early gene (IEG)であるc-fosとjunBの転写が亢進することが明らかになった。さらに、この反応はextracellular signal-regulated protein kinase (ERK)を介して起こることが明らかになり、転写因子Elk-1が関与する可能性が示唆された。また、c-fosとjunBの遺伝子産物c-FosとJunBは、AP-1を形成することによって、他の遺伝子の発現を誘導することが示唆された。 神経由来培養細胞PC12を用いて、静脈麻酔薬によるIEG発現誘導について検討した。その結果、thiopental、propofol、diazepamではIEG発現誘導が観察されないが、midazolamはERK活性化を介してc-FosとEGR-1の発現を誘導することが明らかになった。Midazolamの催眠作用はGABA_A受容体を介することが知られているが、IEG発現誘発作用はGABA_A受容体を介するものではなく従来知られていなかった薬理作用であり、その作用機序と生理的意義を解明することが必要である。
|