周術期に使用される薬物による遺伝子発現の変化について検討し、以下のような知見を得た。 1.オピオイド受容体を発現させた細胞をアゴニストで刺激すると、mitogen-activated protein kinase(MAPK)を介して転写因子c-fos、junBのmRNAあるいは蛋白の発現が誘導された。 2.ラット褐色細胞腫細胞株PC12において、benzodiazepine系鎮静薬midazolamがMAPKを介してc-fosとEgr-1の遺伝子発現を増加させることを明らかにした。 3.生体のストレス反応の中心的な役割を果たす下垂体前葉細胞におけるACTH前駆体proopiomelanocortin(POMC)遺伝子発現に対する薬物の作用を検討した。benzodiazepine系鎮静薬(midazolamおよびdiazepam)は細胞内cyclic AMPを増加させることにより、CRHによって引き起こされるPOMC遺伝子の転写を亢進させることが明らかになった。 4.Hypoxia-inducible factor(HIF-1)を介する低酸素による遺伝子発現変化に対する各種薬物の作用を検討した。揮発性麻酔薬ハロタンと静脈麻酔薬プロポフォールは、異なる機序により低酸素によるHIF-1活性化を抑制することが明らかになった。 5.揮発性麻酔薬のイオンチャネルに対する作用について解析し、ハロタンのCa^<2+>依存性K^+チャネルのIKサブタイプに対する抑制作用は、イオン孔形成領域近傍に対するハロタンの作用によることを明らかにした。 6.揮発性麻酔薬イソフルランは、大脳皮質におけるセロトニン放出を徐波睡眠時と同程度まで抑制した。この現象は、イソフルランの意識消失作用に関係することが示唆された。
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