研究概要 |
DNAメチル化はヒトを含む脊椎動物で唯一の生理的なDNAの修飾である。本研究課題では,DNAメチル化酵素ファミリーとメチル化CpG結合蛋白質ファミリーの生理機能を,マウスや培養細胞などのモデル系とヒト異常症を通じて探り,これらを総合して,メチル化を中心とするエピジェネティクスの全容を明らかにする。本年度は以下の成果をあげた。(1)メチル化酵素DNMT1の条件的ノックアウトを得るためキメラマウスを作製した。(2)マウスの各組織,特に生殖腺におけるDNAメチル化酵素ファミリーの分布を明らかにした。(3)DNMT3A, DNMT3Bの配列特異性などの酵素学的性質をin vitroで明らかにした。(4)国内のICF症候群の患者において,DNMT3Bの新たな変異を発見した。(5)メチル化CpG結合タンパク質MBD1の転写抑制ドメインはヒストン脱アセチル化酵素に依存せず,新規メディエー夕ーMCAFを介して転写開始複合体を直接阻害することが判明した。細胞内でメチル化された遺伝子の転写抑制に関与することが示唆された。(6)メチル化CpGとMBD1のメチル化DNA結合ドメインの複合体構造を解明した。(7)女性に特有な神経疾患のレット症候群の原因遺伝子としてMeCP2が知られているが,X染色体連鎖性の精神発達遅滞の男性患者でMeCP2遺伝子変異を見出し,神経機能とDNAメチル化の関連性が明らかになった。今後は,条件的ノックアウトマウスの作製をすすめると共に,上記の各研究成果をさらに発展させていく予定である。
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