研究概要 |
本研究は,日々計測されるGPSデータを用いて,列島各地域の大局的地殻変動と地域的地殻変動を監視する地殻変動モニタの開発を試みるものである.地殻変動モニタの最大のポイントは,GPSによって計測される列島の変位・ひずみ場を逆解析することで,応力場を推定することである.地震は地殻の応力によって引き起こされるため,地震予知研究を行う上で地殻の応力の推定は本質的に重要である.また,計測されたひずみと推定された応力の関係から,地域の応力-ひずみ関係を求めることできるため,より詳細な列島の物理モデルが構築され,モニタによって監視される応力の推定精度が向上することが期待できる. 現時点での研究の主要な成果は次の2点として整理される. 1)グリーン関数のスペクトル分解を用いた新しい逆解析理論とそれに基づく数値解析手法を開発した.スペクトル分解を用いた逆解析理論では,GPSの変位(増分)計測精度に応じて,「どのモードのバックスリップを見ることができるか」を明確にすることができる.この観測可能なモードの同定は数理的・物理的に合理的であり,通常の誤差最小を目的とする逆解析とは一線を画すものである.ユーラシア・太平洋プレートとユーラシア・フィリピン海プレートのプレート境界に対し,この手法を用いてバックスリップの同定を行っている. 2)エイリー応力関数を用いた応力分布推定手法を完成させ,数値解析手法を開発し,地殻変動モニタのプロトタイプを作り上げた.エイリーの応力関数を用いることで,平衡状態にある応力成分を巧妙に見つけることが可能となり,ひずみを用いた応力推定に対する数値解析の精度が向上する.このプロトタイプは地殻変動モニタ開発の大きなステップである.このプロトタイプを用いて実際のGPSデータを解析し,応力分布と地域ごとの応力-ひずみ関係を計算している.パラメトリックスタディとして,インプットする材料定数や境界条件の設定等を種々変更した場合の応力や応力-ひずみ関係を求めている. 現在,既知の地殻の速度構造と,推定された応力から予想される地域の堅さ(応力-ひずみ関係)を比較し,地殻変動モニタの妥当性・有効性の検証に取りかかっている.東北地方の山脈部に比較的軟らかい地域が存在する等,定性的には妥当と思われる結果がでており,より定量的な比較を試みている.
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