側頭葉視覚連合野における形と面の情報処理

2003 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 13308046
• 研究機関: 大阪大学
• 研究代表者: 藤田 一郎 大阪大学, 大学院・生命機能研究科, 教授 (60181351)
• 研究分担者: 田村 弘 大阪大学, 大学院・生命機能研究科, 助教授 (80304038)
• キーワード: 大脳皮質 / 視覚連合野 / 物体認識 / 多細胞活動同時記録 / 光学測定 / コラム構造 / 両眼視差 / 抑制性伝達物質

研究概要

霊長類の大脳皮質視覚領野のうち、物体の視覚的認識に関わっている視覚経路は、一次視覚野から2次視覚野、4次視覚野(V4)を経由して下側頭葉皮質(IT)にいたる側頭葉経路である。この経路の後段部であるV4およびITにおける情報処理について調べ、以下のことを明らかにした。
1.両眼立体視のための情報処理過程において重要なステップは、右網膜上での視覚対象像が左網膜のどの位置に投影されているかの対応を正しく取ることである。両眼に与えた視覚刺激の輝度コントラストを反転させたステレオグラムには正しい対応がなく、ヒトやサルは奥行きを感ずることができない。同様に、脳の中にも、輝度反転ステレオグラムに含まれる両眼視差には感受性をもたない細胞があるはずである。ところが、一次視覚野や頭頂葉経路のMT野やMST野の細胞は感受性を示す。本研究において、V4野の細胞の反応を調べたところ、知覚と同様に、輝度反転ステレオグラムに含まれる両眼視差情報には感受性をもたない細胞が多くあることが判明した。両眼対応問題は、側頭葉経路にそって解決されていくものと考えられる。
2.IT野の細胞が、その両眼視差感受性に従って、性質の似た者同士があつまった200-400ミクロンの大きさの機能単位構造を形成していることを発見した。
3.IT野の細胞のうち、抑制性ニューロンを機能的に同定して、その視覚反応性を調べたところ、興奮性細胞と同様の頻度で視覚刺激に反応し、また、その選択性も同等であった。抑制の対象となる後シナプス細胞とは、異なる視覚刺激に反応する傾向が認められた。抑制性相互作用が、IT野ニューロンの視覚刺激選択性の形成に寄与していることを示唆している。

研究成果

• [文献書誌] Wang, Y. et al.: "Coding of visual patterns and textures in monkey inferior temporal cortex"NeuroReport. 14. 453-457 (2003)
• [文献書誌] Xu, L.et al.: "Distribution of a-Amino-3-Hydroxy-5-Methyl-4-Isoxazolepropionate-Type glutamate receptor subunits (GluR2/3) along the ventral visual pathway in the monkey"Journal of Comparative Neurology. 456. 396-407 (2003)
• [文献書誌] Fujita, I.: "The inferior temporal cortex : architecture, computation, and representation"Journal of Neurocytology. 31. 359-371 (2003)
• [文献書誌] Tamura, H. et al.: "Presumed inhibitory neurons in the macaque inferior temporal cortex : visual response properties and functional interactions with adjacent neurons"Journal of Neurophysiology. (In press).
• [文献書誌] Yoshiyama, K. et al.: "Architecture of binocular disparity processing in monkey inferior temporal cortex"Neuroscience Research. 48. 155-167 (2004)
• [文献書誌] Tanabe, S. et al.: "Rejection of false-matches for binocular correspondence in macaque visual cortical area V4"Journal of Neuroscience. (In press).
• [文献書誌] Tamura, H. et al.: "Inhibitory mechanisms underlying stimulus-selective responses of inferior temporal neurons"In : The Neural Basis of Early Vision, 11 : 245-249. 5 (2003)