下側頭葉皮質(IT)のニューロンは、特定の形、色、テクスチャー、両眼視差を持つ視覚刺激に対して選択的に反応する。この刺激選択的反応性は、物体やその立体構造の知覚、弁別、認識、記憶の脳内機構を支えている。ITニューロンの刺激選択性の形成機構を明らかにすることは、これらの認知機能の神経メカニズムを理解するうえで重要である。本プロジェクトにおいて、マカク属サルのITおよびその前段であるV4野より、単一または複数神経細胞からの細胞外活動電位を記録し、これらの領域における視覚図形およびその面構造の処理過程について解析を行い、以下の点を明らかにした。 (1)ITニューロンは、右目網膜像と左目網膜像のわずかなずれである両眼視差のみによって定義されている形に対して反応することができる。両眼視差により定義された形への反応選択性は、輝度やテクスチャーにより定義された形に対する反応選択性と同じであり、形を定義する視覚てがかりによらない形情報の表現がなされていることが判明した。 (2)多くのV4ニューロンは、ランダムドットステレオグラムに与えた両眼視差に対して感受性をもつ。しかしながら、左右に与える視覚刺激の対応するドットの輝度を反転すると、視差感受性V4ニューロンの多くは、両眼視差に対する感受性を失ってしまう。このテストの結果はV1からV4にむけて両眼対応問題が解決に向かっていることを示している。 (3)抑制性伝達物質GABAを介する相互作用が、ITニューロンの受容野構造やテクスチャーに対する反応選択性の形成に関わっていることを、ビキュキュリンの微小投与により明らかにした。さらに、多細胞活動同時記録-相互相関解析法により、抑制性ニューロンを同定し、視覚反応性を調べたところ、抑制ニューロンからターゲット細胞への刺激選択的な抑制作用がITにおいて刺激選択性形成に関わっていることを示した。
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