研究概要 |
培養血管内皮細胞に流れ刺激を作用させると、剪断応力の強さに依存した細胞外カルシウムの流入反応が起こる。この反応にATP作動性のカチオン・チャネルのP2X4が中心的な役割を果たしていた。このことからP2X4が血流センサーとして働き、その発現レベルが血管の血流に対する感度を調節している可能性が考えられた。そこで、内皮細胞のP2X4の発現に及ぼす、剪断応力)の影響について検討を加えた。人臍帯静脈内皮細胞に平行平板型流れ負荷装置で剪断応力(15dyncs/cm^2)を作用させると、1時間でP2X4 mRNAレベルの低下が始まり、12時間でコントロールの約60%となり、24時間後も12時間後と同程度の低下を示した。P2X4蛋白は6時間でコントロールの70%,24時間で63%に減少した。P2X4の遺伝子プロモータ領域を含むDNAフラグメントを挿入したルシフェラーゼ・ベクターを内皮細胞に導入して剪断応力を24時間負荷したところ、転写活性がコントロールの58%に低下した。プロモータの欠失解析により、剪断応力によるP2X4遺伝子の転写抑制に重要な役割を果たしている応答配列が転写開始点より上流-112bp内に在ることが示された。さらに、変異を入れる実験により応答配列が-67--58bpに存在する転写因子SP-1の結合サイトであることが判明した。ゲル・シフト・アッセイにより、剪断応力を負荷した細胞ではSP-1の蛋白量が明らかに減少していることが示された。また、P2X4の発現が低下した内皮細胞では流れ刺激に対する感度、すなわちカルシウム流入反応が低下していた。このことから、生体には血流自身が内皮細胞のP2X4の発現変化を介して血流に対する感度を調節する機構があり、それが血管機能の恒常性の維持に働いていると考えられた。
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