研究課題
ラット味蕾細胞の初代培養系を確立するため、舌から味蕾をどのような条件で分離するか、シャーレにいかにして接着させるか、培養液は何が最適かの3点について検討した。その結果、味蕾を分離する酵素はコラゲナーゼとエラスターゼの併用が最適であると結論した。接着に関しては、味蕾細胞は単離後、球状の形態をとるためプラスチック(あるいはリジンコートしたガラス等の)シャーレに直接接着しないため、マトリジェルを試みたところ、良い結果を与えることが分かった。培地についてはケラチノサイト用のmKGM培地が適しているという結果を得た。このような条件で少なくとも一週間の初代培養が可能となった。そこで培養味蕾細胞の諸性質を検討したところ、培養味蕾細胞をトリパンブルー(死細胞)とニュートラルレッド(生細胞)染色を行うと、ほとんどが生細胞であることが確認できた。そこで形態観察とともに味蕾特異的な分子群(レセプター、Gタンパク質、PLCβ2、サイトケラチン類など)の発現をin situハイブリあるいは抗体染色で観察したところ、ほとんどの細胞はサイトケラチン8陽性で、そのうち10%程度の細胞はPLCβ2を発現していた。しかもPLCβ2発現細胞の約半分はガストデューシンも発現していた。このような分子の発現状態はin vivoの味蕾細胞のそれらと同様であることから、培養味蕾細胞はネイティーブの味蕾細胞を反映していることが明らかになった。次に培養細胞に遺伝子を導入した。導入方法としてアデノウィルス感染法を用いたところ約90%以上の細胞に遺伝子が導入された。次に、味覚レセプターと構造的に近縁のα1-アドレナリンレセプターを導入したところ、培養細胞の膜に発現し、しかもノルエピネフィリー添加による細胞内カルシウム上昇を測定することができた。この成功は味蕾を用いた味覚工学の創出に具体的な指針を与える成果である。
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