研究概要 |
本年度、乳児ならびに幼児の書きと描きについて分担者が以下の研究を各々実施し、さらに論考を深め合うために、ラウンドテーブルを発達心理学会において実施した。 乳児期においては、描画と文字(ひらがな・数字)における表記知識と表記活動の初期発達を1-3歳児(5年齢群)に対しカード分類課題ならびに産出課題を実施し、カーミロフスミスの主張する領域固有性仮説の妥当性について5年齢群間での発達過程と描画と文字の関連性を吟味した。 幼児期に関しては、絵画表記理解の発達は、「事物固有の色→事物を表す描画の彩色」「事物の境界・輪郭→描画の線分」「事物の表面→描画の塗りこみ」という写像獲得過程と考えられる。この写像原理の獲得の観点から、4、5歳児を対象に円筒形と直方体の描画課題を実施し、各要素間で写像にずれがあるか等を検討した。その結果、色、境界、輪郭の写像については課題間差はない。見えている面については直方体よりも円筒形で適切な色の写像をする傾向が見られた。表面および面数の写像に課題間差があり、いずれも直方体より円筒形で容易であった。以上から、課題難易度が写像原理適用に影響することが示された。 また音韻意識と読みに関しては、従来,音韻意識が読みの獲得の前提となることが指摘され,読みの獲得によって音韻意識も影響を受ける可能性が指摘されてきた。本研究では,ひらがなの読みの習得して間がない日本人幼児と中国人留学生を対象として長音と促音の聴覚的な弁別課題(例えば「どろ」と「どうろ」について中間的な長さの音を聞かせ,どちらか判断させる)を実施し,読みの習得の影響を実験的に検討した。その結果,日本語児では読みの習得に伴い弁別の正確さが増すこと,留学生では曖昧さが残ることが示され,読みの習得は既存の音韻意識の精度を増すことに効果があるものと考えられた。
|