研究概要 |
[知識獲得モデルの構築]時間,距離,速さの関係概念の発達について,知識獲得のプロセスとメカニズムを,横断的,縦断的に詳細に明らかにし,これまでの研究を集大成した.また時間の知識と空間の知識について,その獲得過程の対比研究を行った.時間の知識のかなり高度な使い分けについても,思春期以降の子どもや大学生について調べ,記憶容量や認知方略との関係を調べた.さらに,大学生の時間の管理についての知識の現状を調べ,実践的な観点から,その獲得についての研究を継続中で,その最初の段階についてはすでにまとめた. [知識獲得とメタ認知]子どものメタ認知や方略利用の変化のプロセスを観察し,科学的,数学的概念の獲得を促進する物理的・社会的環境について検討した.幼児に図形の大小を比較させ,さらに半数の幼児に方略の評価を行わせた.その結果,適切な方略使用と正しい比較判断が増加し,適切な方略の有効性を認識する子どもが増えた.しかし,有効性の認識は、方略の使用とは関係がなかった.物理的環境,メタ認知,概念獲得の間のダイナミックな関係が示唆された. [文章理解と作業記憶]作業記憶容量と文章読解との関係を読みの眼球運動を指標として調べた.作業記憶容量はリーデイングスパンテストによって測定し,容量の大きな読み手と容量の小さい読み手の眼球運動のパターンを比較した.その結果,容量の小さい読み手は,読解の進行に伴って短い停留の生起頻度が高まることなどが見いだされた.このことから,容量の小さい読み手は文章を外部記憶補助として利用し,頻繁に文章をスキャンすることで読解の破綻を回避する補償的処理方略を用いていることが明らかとなった.この結果は,作業記憶容量と情報処理の効率性の相関を指摘するに止まらず,知識獲得過程において,人間が作業記憶をどのように利用しているかを明らかすることの重要性を示唆するものである.
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