研究課題
本研究の目的は、中国帰国者の日本社会における適応と共生に関する総合的研究であるが、本年度は、長野調査、関西調査、中国現地調査を行った。まず、(1)長野調査では、1ヶ月におよぶ飯田下伊那での中国帰国者に関する調査で残留婦人や帰国者2世へのライフヒストリーインタビューや行政資料の収集分析を行った。それによると、飯田下伊那には人口の1%(1500名)の中国帰国者が住み、そこには残留婦人や残留孤児を核とする大家族を縦の軸とし、学校での友人関係などの世代を横の軸とする帰国者コミュニティが成立していることが明らかになった。つぎに、(2)関西調査では中国帰国者身元引受人会と帰国者本人への調査を進めているが、身元引受人の努力によって帰国者が日本社会へ適応しつつあるが、双方の間には様々な行き違いがありそれを生めるためには相当な努力がなされていることがわかった。ただ、日本人でありながら、身元引受人が必要であるという現行制度の根本的な意味はどこにあるのかという考察が避けてとおれないことが明らかである。また、(3)中国調査では、帰国せずに中国に留まっている「中国残留邦人」へのインタビュー調査と中国残留邦人の帰国問題についての中国行政当局の行政文書調査を行ってきた。前者に関しては、中国に留まる邦人の多くが恵まれた生活環境にあり、しかも日本帰国がまったく考えていないわけではなく、状況の変化によっては「帰国」もありえることなど不確定であることが判明した。行政文書に関しては閲覧もそう簡単ではなく、今後の課題である。さらに、「満洲国」時代の文学作品のなかに開拓民や戦後の残留邦人がどのように描かれているかを問題意識として資料収集を行ってきた。