研究概要 |
東京都下の1市に在住する65歳以上の高齢者全数約27,000人から無作為に抽出した10,000人を対象にスクリーニング調査を行った。さらに把握された在宅要介護高齢者の介護者1,323人を対象に訪問面接調査を行い,調査完了数595人を得た。収集したデータと,介護保険施行前である平成10年に,同市において同様の方法を用いて実施した在宅要介護高齢者の介護者調査(558人対象,調査完了数404人)で収集したデータの比較を行い,以下の知見を得た。 介護保険制度の実施により,要介護高齢者の保健福祉ニーズが充足されたことが示された。しかしながら,ニーズが形成される主要な3つの要因を組み合わせて作る類型別にニーズ充足度をみてみると,必ずしもすべての類型においてニーズが充足されているわけではなく,むしろニーズ充足度が低下している類型もみられた。 在宅介護サービスの利用や利用意向が,介護保険制度の導入前後でどのように変化したかは,サービスの種類によって異なった。訪問型のサービスは,介護保険制度施行後利用意向や利用実績が増加したが,通所型のサービスは,利用意向や利用実績が増加しなかった。介護保険制度施行後,訪問型のサービスの利用が普及したにもかかわらず,家族介護者の施設サービス利用希望は高まっていた。訪問型サービスの利用の拡大が,必ずしも家族の在宅介護指向を促進するわけではないことがわかった。 ホームヘルパーなどが介護を主に担うケースは微増したものの,介護保険制度施行後も依然として家族介護が主流であり,介護の社会化は進んではいなかった。介護者のサポートネットワークは脆弱になっており,少ない介護者で在宅介護を担うケースや,相談相手がいない介護者の割合は増えていた。また,主に介護を担っている介護者の身体的負担,精神的負担,社会生活への負担も,介護保険制度の施行によって改善されたわけではなかった。
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