1.アルコール関連問題の一つとして位置づけられたドメスティック・バイオレンス(DV)に関する研究は、わが国で初めての試みである。それに加え、全国データが収集されたことは今後の研究のベースラインを設定するものであり、研究成果の集合的蓄積上大きな貢献と考えられる。 2.実践的な実態調査が中心であったこれまでのDV研究に対して、今回の調査研究は学術的、研究的視点から実施された。その結果、(1)特にDVと過剰飲酒の相関性が明らかになったこと、ならびに(2)全国一般住民のDVの経験率はこれまでの行政を中心にしたどの全国調査よりも低い事実が判明したこと、などは大いに論争的なものであり、今後さらに展開するDV研究の第二段階開始を刺激するインパクトをもつ。 3.上記の研究上のみならず、現実の問題解決に向けた対策上の示唆が明らかな形で導き出されたことも、確実な成果といえる。具体的には、(1)DVの世代連鎖に関する分析からは、16歳前の家族暴力の目撃経験、被害経験は本人のDV被害とは無関連だが、DV加害に最も強く関与していることが判明した。DVの世代的再生産を抑止する上で、現在のDV予防、介入の重要性が示唆された。また(2)臨床調査の結果からは、アルコール依存症の場合断酒が成功するとDV行為も劇的に減少する事が確認され、DVと過剰な飲酒の関連性が浮き彫りにされたのみならず、今後アルコール臨床がDVの防止、介入に有効であることが示唆された。 4.国際比較の点では、日本は米国、英国などとともに行動的というよりも言葉による暴力が比較的に多く観察された。身体的暴力の自己申告ではアフリカ諸国が目立つが、アメリカは相当に高い経験率が観察されている。日本は英国、チェコ、などとともに中位の上位国に位置づけられる。アフリカ諸国では性的虐待を含めて、多くの被害体験が報告されている。また国際共同調査の観点からは20数カ国もの多国間の共同性の確保の難しさと問題点も整理された。
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