研究課題
基盤研究(B)
今年度においては、私たちは、全国的規模で実施された公立中学校の校長と教員を対象とする調査によって得られたデータをより深く分析するとともに、ホリスティックな教育改革の概念と社会的意義について吟味した。その上で、(1)地域・学び舎、(2)小学校・中学校、(3)高校、というの3領域ごとに学びの場を構築する具体的な改革実践を取り上げ、若干の考察を行った。最終報告書の中で導かれた主な知見は、以下の通りである。1.新自由主義的で新保守主義的な教育改革が進められることによって、結果的に制度的な差別が拡大していった。こうして、日本の教育がもっていた機能が犠牲となり、学習や生活や成長にかかわるさまざまな社会的基盤がどんどん崩されていった。2.従来、改革を積極的に受け入れていた層までもが、教育改革の計画自体に異議を唱えるようになっている。政策を立案する側と教育実践に携わる側との間で、信頼関係が損なわれ始めている。およそ3000名に及ぶ教員たちが書いたかれらの悩みを質的に分析することを通して、昨今の教育改革が教員の多忙化をもたらし、協働的な同僚性がやせ細っていく実態が浮き彫りになった。3.中学教育のさまざまな「ゆらぎ」を分析することによって、私たちは次のような結論に到達した。すなわち、多くの人々がしがみつく教育改革をめぐる支配的な物語や縮こまった実践に終止符を打ち、構造的な病を克服しなければならないということである。そのためには、「人が育っていくこと」の本質をしっかりと見極め、柔らかい対話を試みることが重要である。4.すでに、わが国に固有のホリスティックな教育改革の萌芽が確実に育てられている。本研究は、これらの実践と教育社会の構造的な現実に丁寧に耳を傾けることが不可欠であることを示した。今後、さまざまな改革領域の実践に共通する要因を取り出し、当事者同士が互いに連帯できるような方策を考えていくことが鍵を握る。それは、私たち一人ひとりが、社会や人間について、自分たちとの関係を問いながら、もっと深く知っていくことによってはじめて可能になる。