研究分担者 |
吉田 豊 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (30191620)
武内 紹人 神戸市外国語大学, 外国語学部, 教授 (10171612)
荒川 正晴 大阪大学, 大学院・文学研究科, 教授 (10283699)
白須 浄真 広島安芸女子大学, 経営学, 専任講師 (10330713)
百済 康義 龍谷大学, 文学部, 教授 (80161636)
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研究概要 |
森安と研究分担者の坂本和子・蓮池利隆・松井太は8〜9月にサンクト=ペテルブルク・ベルリン・ロンドンに赴き,文書と織物・壁画の調査を行なった.森安は,各地に散在するトゥルファン出土文書の中からチクティムに関わるウイグル文書を抽出してひとまとめにし,モンゴル帝国時代のチクティムという都市の住民であるウイグル人がいまだイスラム教徒になっておらず,ほとんどが仏教徒であること,その仏教共同体の有力者たちがモンゴル時代独特の税であるクプチル税の納税者であると同時に,隷属民の所有者であり、かつオルトクという組織のもとにシルクロード貿易に従事していること,などを明らかにした.既に森安は,オルトクの担い手がイスラム商人であったとする通説にアンチテーゼを提唱したが,その主張を一層進めたわけである.坂本はエルミタージュ博物館のカラホトの織物を調査し,中国の織物と同様の発展を確認し,ベルリンのインド美術館では東トルキスタン出土の織物を調査し,当地の織物の技術的発展とその東西交流を確認した.蓮池は,西域南道と西域北道のカローシュティー文字資料の比較検討を行ない,西域南道(ニヤ)出土のカローシュティー文字資料はプラークリットの特徴をよく保存しているのに対し,西域北道(クチャ)出土のものはよりサンスクリット化が進んでいることを明らかにした.松井は,ウイグル語・モンゴル語の契約文書・帳簿様文書を中心に解読作業を行なった.その結果,中央アジア地域の経済状況や社会組織・住民組織の実態を示す文書類を多数把握し,あわせて解読テキストを準備することができた. 武内は,6月に大英図書館においてスタイン蒐集の古チベット語木簡の調査研究を行ない、その半数あまりについてのデータベース化を終えた.9月にスコットランドで開催された国際チベット歴史学会において,その成果の一部を発表した.吉田はベルリンにあるCh/U 6879文書の裏面がソグド語で書かれており,マニ教僧侶の法衣に関する出納簿であることを発見した.そこに見られる木綿の生地の名前「ソグドの綿布」「カラシャールの綿布」からおそらくは十世紀の綿布の流通の一端を見ることができる.荒川と白須は,9月に旅順・大連・瀋陽に滞在し,旅順博物館において大谷探検隊将来の文書および遺物の調査をするとともに,大連図書館および遼寧省档案館において,大谷探検隊関係の資料や羅振玉旧蔵文書の調査を行なった.また白須は1月にソウルの国立中央博物館を中心に中央アジア出土文物を調査した.松川節は,1月に呼和浩特市の内蒙古社会科学院図書館並びに内蒙古自治区図書館を訪問し,前者ではモンゴル文北斗七星経の単行写本2種とモンゴル文仏典集に含まれる北斗七星経5種を閲覧,後者でも3種を新たに閲覧し,本経典の成立過程に関する研究を進めた.同時に,中央アジアの仏教文化がウイグル→モンゴルという経路で北アジアにまで伝播した証拠についても,新たな知見を得た.
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