本研究は、(1)和同開珎研究の学史的整理による初期貨幣研究の論点の明確化。(2)富本銭と和同開珎(古和同)の形制や地金の材質的特徴、製作技術の比較研究。(3)無文銀銭、富本銭、和同開珎の出土例の集成と出土銭貨の年代的検討、を通して、富本銭と和同開珎の系譜的関係を明らかにし、わが国の初期貨幣史を再構築することを目的としたものである。 まず(1)の初期貨幣研究の学史的整理では、その基礎資料となる文献目録を作成した。文献数は約600件にのぼり、それに基づいて文献収集を行った。 (2)では、飛亀池遺跡出土富本銭鋳銭関係遺物の分析を通して、富本銭の製作工程や鋳型の復原作業、富本銭地金の科学分析を行った。その結果、富本銭が既に大量生産に適した高度な鋳銭技術を獲得していたことが判明し、富本銭と和同開珎の鋳銭技術の異同の一端を明らかにすることができた。富本銭の鋳銭技術が中国から導入された技術であるのか否かが、今後の大きな検討課題となった。 (3)の初期貨幣の出土例の全国集成では、和同開珎438遺跡4800点、富本銭10遺跡、無文銀銭16遺跡を集成し、関連資料の収集を行った。収集資料を基に、無文銀銭の性格を考究し、無文銀銭が1分(10.5g)に重量調整された物品貨幣(地金貨幣)で、韓国の新羅産の可能性があること、和同開珎の銀銭が無文銀銭の貨幣価値を継承し、実質的な地金価値で流通した無文銀銭から、名目貨幣へと質的転換が図られたことを明らかにした。 本研究の柱となる全国の研究者(研究協力者)との共同研究では、平成13年度に研究集会「鋳銭技術の史的検討」、平成14年度に研究集会「古代の銀と銀銭をめぐる史的検討」を開催し、その記録集を翌年度に刊行した。また貨幣関係史料の整理を行い、「古代鋳銭司関係史料集稿」と「日本古代銀関係史料集稿」を作成し、記録集に収録した。
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