研究課題
4回開催した研究会において、貨幣・金融制度、国家・財政制度、企業・労使関係制度に関する各研究分担者による研究の中間報告とそれに関する討論を行った。このような研究会と各自が行った分担研究を通じて次のようないくつかの進展がみられた。われわれの研究によると、日本、ドイツ、米国という3つの資本主義には次のようなちがいがある。米国では労働市場と株式市場が大きな役割を果たしているのに対し、日本とドイツでは労働と資本に関する調整については、市場よりもコーディネーションが大きな役割を果たしている。つまり、雇用や賃金の調整や資金の調達は、米国では主として市場を通じて行われており、日本とドイツでは、企業単位や産業単位での協議を通じて行われている。その結果、米国では労働力や資本の移動は迅速であり、雇用期間、失業期間や株式所有期間はいずれも短期的である。逆に、日本とドイツでは、雇用期間、失業期間、株式所有期間や銀行からの資金借入期間はいずれも長期的である。経営者、労働者、銀行が長期的で密接な関係を通じて、多くの情報を共有しているからこそ、協議による調整が可能になっている。そして長期的で密接な関係の存続を背後で支えているのは技能形成制度、雇用制度などの諸制度である。技能形成制度、雇用制度、賃金制度、貨幣金融制度、福祉制度の間には強い結びつきがあり、これらの制度は相互に補完しあって首尾一貫性のあるひとつの経済システムの骨格をかたちづくっている。日本では1980年代以降、金融制度が大きく変化したのに、技能形成制度や雇用制度の変化は遅い。その結果、一部で補完性が損なわれたことが、日本の90年代以降における長期停滞の一因であることが明らかになった。
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