研究概要 |
本研究では、今後の高齢化社会に向けて、医療・介護・保健・年金といった分野において、効率的な制度は如何にあるべきか、理論と実証から分析した。まず、現行制度の実証的分析を医療と介護を中心に行った。今後高齢者の医療費を引き下げると期待されているITを用いる在宅健康管理システムを取り上げ、これがどれだけの金額の経済効果を生むか推計した。実地調査を行った事例は、福島県西会津町・葛尾村、山口県三隅町、岩手県釜石市・胆沢町、兵庫県五色町などである。分析手法としてCVMを用い、在宅健康管理システムに対する需要曲線を、質問したWTPの金額と回答人数から推計し、得られた需要曲線から所望のWTPを求めた。それは、例えば、釜石市では住民一人4,519円、葛尾村では住民一人1,640円と推計された。さらに費用便益分析を用いて、上記のWTPと事業コストを比較したが、B/C比率は前者では1.07、後者では0.54となった。その他の自治体では、0.5程度であり、収益事業としては成り立っていない。さらに回帰分析により、在宅健康管理システムの費用負担のあり方が分析できた。釜石市の場合では、WTP4,519に対する自己負担は3,961円、保険(公費)負担は558円となった。現在、在宅健康管理システムの運用について介護保険の適用を求める要望が強いが、釜石市の事例では、保険から1人当たり558円を支給してもよいことになる。医療費の削減効果をもつ在宅健康管理システムは、現在は自治体によって補助金により運営されているが、得られた費用便益比率は1より小さく、その便益は費用によって回収できず、現行制度のもとでは、サービスを市場メカニズムよって供給することに関して否定的な結論が得られた。医療・保健・介護といったサービスは、今後、自治体、NPO、ボランティアといった地域での共助のシステムが必要である。
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