平成15年度は、主に2つの観点から住宅市場の分析を実施した。第一は、住宅取得における贈与の影響である。第二は、相続税と土地譲渡所得税が土地の需要価格にどのような影響を及ぼすかについての分析である。 第一の観点は、すでに平成14年度から取り組んでいる主要テーマのひとつであり、昨年収集し整理したミクロデータをもとに実証的分析を行い、2つの論文『贈与と住宅資金:東京圏のミクロデータから』(都市住宅学No.44、136-147)ならびに『家計の住宅投資と世代間移転の実証研究:東京圏ならびに名古屋圏の比較を中心として』(住宅土地経済、発行予定)において、その成果を発表した。贈与と相続の過去のデータからは、贈与と相続に関する差別的税制のため、贈与は住宅取得時の非課税枠内で実施される場合がほとんどであり、親世代から子供世代への全移転額の3%程度にとどまっていることが明らかとなった。また1998年東京圏ならびに名古屋圏のミクロデータを検討したところ、次の2点が判明した。第一に、シミュレーションからは住宅取得時の非課税額が300万円から550万円に引き上げられたとしても、住宅取得を行なわなかった世帯を取得に踏み切らせるためには量的に不足していた。さらに、住宅取得を行なった世帯について、非課税額が引き上げられることによって、借入額が一部減少するものの、住宅投資額は増加した。 第二に、こうした贈与税が非常に高率で禁止的である点を考慮すると、資産を相続する際に特に考慮しなければならないのは、譲渡所得税と相続税である。土地で相続するか金融資産で相続するかについての選択は、相続税はもちろんのこと、土地の売却に伴って発生する譲渡所得に対する課税、譲渡所得税を同時に考えなければならない。著者たちは、すでに過去において、市街化区域内農地の相続税が農地の保有を圧倒的に有利にしている点を、シミュレーション・モデルを用いて検討した。今年度は、同じ手法を用いて、宅地の相続税評価の問題と税率のフラット化についてのシミュレーションを実施している。よく言われているように、宅地の相続税評価は、金融資産よりも低いために、宅地で相続するほうが有利である。もちろん理想的には、この評価を市場価格で実施することが望ましいのであるが、土地の取引は頻繁に生じないために、これは実際的には、それほど容易ではない。むしろ、その代替手段として、相続税制度を、基礎控除やさまざまな控除を含めて、フラット化した方が土地と金融資産の選択のゆがみを取り除くことができるかもしれない。相続税率の累進度は極端に高いために、金融資産に比較して評価の低い土地の有利性を大きくしている。こうした点を考慮して、相続税の累進度を低めて、税制をよりフラット化した場合に、土地の有利性がどれだけ低下するかについて、シミュレーション分析を行っているところである。この分析を通じて、税制のフラット化と土地評価を市場価格に近づけるという方法のどちらが、合理的かについて検討することができる。
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