研究概要 |
通常,量子系の基底状態の存在は,無摂動系が基底状態をもつと仮定して,証明される場合が多い.しかし,無摂動系が基底状態をもたなくても相互作用がはいることにより,相互作用系は基底状態をもちうる.このような場合,当該の系は「高められた束縛」(enhanced binding;以下,EBと略す)をもつという.与えられた量子系がEBをもつかどうかはもちろん,その系の性質による.そこで,どのような条件のもとでEBが生じるかを数学的にきちんと考察することは数学的にも物理学的にも極めて重要な問題である.この問題はつい最近にならって研究されはじめ、非相対論的量子電磁力学におけるパウリ-フィールツモデルにおいて,結合定数が小さい場合と大きい場合について(ただし,後者はいわゆる双極近似の場合),EBが生起することが証明された(Hiroshima & Spohn, Hainzl et al.).研究代表者は,ディラック粒子と量子電磁場が相互作用をする系のある種の抽象版として定義される量子場の一般的クラスについて,EBの問題考察し,非常に広いクラスにおいて,EBの存在をはじめて普遍的な形で確立した.主な結果は次の2点である:(1)モデルに含まれる結合定数が少なくともある中間的領域にあるならば,EBが生じる.(2)応用として,パウリ-フィールツモデルにおけるEBの生起証明(ただし,結合定数はある中間領域にあり,電磁場の自己相互作用項が無い場合).
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