研究概要 |
太田は、矢崎,レンツ,ティース教授との光円錐量子化に関する共同研究を論文としてまとめ最終チェックを行っている.光円錐上で真空が自明であるにもかかわらず,自明ではない真空構造を記述できる理論的な根拠を追求した.また、太田の指導の下で、院生(大西一聡)は博士論文で動的臨界現象を記述するモード結合理論を用いてカイラル相転移を解析した。得られた運動学方程式からメゾンモードの動的臨界指数を計算した。その値z〜0.98はこれまでにラジャゴパルとウイルチェックによって得られた結果z=1.5を否定するものであった。大西はこの研究で理学博士の学位を得た。 松井は、院生(松尾衛)を指導して、カイラル相転移のダイナミクスの運動論的記述の研究を行った。この研究は、カイラル相転移とボーズ・アインシュタイン凝縮との類似性に注目して、高温相から低温相への移行にともなう系の非平衡時間発展を、古典的中間子場(凝縮体)と励起モードの混合系として運動論的に記述するのが目的である。これまでに、中間子量子場のハイゼンベルグ表示の運動方程式から出発して、中間子分布関数のブラソフ方程式を導出した。もう1人の院生(小浜健太)は、格子ゲージ理論にカイラル対称性を導入する方法に関して、最近の理論的発展をレビューし修士論文にまとめた。松井はまた、クォーク・グルオンプラズマによる高速粒子のエネルギー損失の問題との関連で、多重散乱が制動輻射を抑制する効果(ランダウ・ポメランチュク・ミグダル効果)に関する研究をベイム教授と行い、津江教授やブレゾー博士とは、ボーズ・アインシュタイン凝縮に関する共同研究を行った。 藤井は、有限温度密度QCDにおいて存在が示唆されている臨界点について、付随するソフトモードを検討した。対称性の変化が伴わない相転移の場合、一般にオーダーパラメタはエネルギー密度やバリオン密度を含む線形結合になる。その結果、臨界点ではエネルギー密度を始めとする保存量の感受率が発散する。一方、保存量の感受率に関与するモードスペクトルは、流体力学的モードが本質的に重要であることが一般的に示された。これをギンツブルグ・ランダウのアプローチとNJL模型計算によって具体的に示し論文発表した。藤井はこの他にJ/psi粒子の高温相での共鳴的振る舞いに関する研究を行った。
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