研究概要 |
本研究の目的は陽子や中性子のスピン1/2が,クォークやグルーオンからどのように構成されているかを解明することであるが,本年度は,電子の偏極深非弾性散乱を用いて2つの大きな成果が得られた。実験にはドイツハンブルクのDESY-HERAを用い,そのデータを東工大で解析した。まず第1の成果は,電子-核子散乱でπ中間子が生成された場合,ないしはガンマ線が生成された場合,それ以外の何の粒子も生成されず標的核子も励起しない事象をexclusive反応と呼ぶが,ビームないし標的の一方が偏極しているSingle Spin Asymmetryがゼロでない値をもつことが発見されたことである。これは,核子のスピンに対するクォーク軌道角運動量の寄与を研究する手段として理論的に提案され,長らく探索されていたもので,「核子のスピン構造」研究に新しい展望を開くものである。第2の成果は,ビームが偏極していて標的が偏極していない場合,exclusive反応でない一般のπ中間子生成において、Azimuthal AngleについてのAsymmetryがあることが発見されたことである。これはビームの進行方向に対して横方向に標的のスピンが向いたときの構造関数h_1を測定するための条件であるCollinsのフラグメンテーション関数が十分大きな値をもっていることを示しており,2002年からの研究への重要な足場を与えることとなった。これらの成果はリングイメージチェレンコフ検出器によるハドロンの粒子識別によってもたらされた成果である。
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