研究概要 |
本研究の目的は、陽子および中性子のスピン1/2が、クォークとグルーオンによりどのようにつくられているか、を解明することである。陽子のスピンに対してクォークのスピンの寄与が小さいことが17年前に発見されて、「陽子のスピンの問題」と呼ばれている。本研究では、新しい実験手法を用いてこの問題の取り組んだ。 実験は、DESY(ドイツ電子シンクロトロン研究所)においてHERMES実験として行った。27.5GeVの電子ビームと偏極陽子ないし重陽子標的の深非弾性散乱実験である。HERMESによるデータを、実験解析拠点がある東工大に逐次送って解析をした。実験手法としては、散乱された電子だけでなく、発生したハドロンも同時計測し、リングイメージングチェレンコフ検出器によって粒子識別した。 研究の成果としては、まず、クォークのヘリシティ分布Δu,Δd,Δs,など5成分を分解して求めることができた。u-クォークは陽子のスピンの方向に平行に偏極するのに対し、d-クォークは反平行に偏極することが明確に示された。Seaクォークの偏極は、ほぼゼロである。 続いて、深仮想コンプトン散乱と呼ばれる過程に起因するスピン非対称度を初めて観測したことがあげられる。「一般化されたパートン分布関数」の研究に重要なデータを供給することができる。 更に、横偏極の陽子標的を用いて、Sivers効果とCollins効果を分離して抽出することができた。これは今後のハドロン・スピンの物理に新しい研究分野を開く成果ということができる。
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