研究課題
素粒子物理学においては、小林・益川の提唱した3世代のクオーク2重項を基礎にした描像が成功をおさめ、素粒子の標準理論の一部を構成している。元来、小林・益川理論は、1973年にK中間子のCP対称性の破れを説明するために導入された考えであり、K中間子崩壊以外の反応で小林・益川理論に従ってCP対称性の破れが観測されることがこの理論のもっとも直接的な検証である。三田・ビギによるCP対称性の破れの観測可能性の指摘と長いB中間子の寿命の観測、そして、大きなB中間子混合などの観測に基づき、B中間子を異なるエネルギーによる電子・陽電子ビーム衝突実験で生成し、B中間子のCP対称性の破れを観測できる可能性が検討された。KEKにおいては、B中間子のCP対称性の破れの観測を目標の一つとしたB-Factoryが建設され、1999年より実験が開始された。爾来、B-Factoryの加速器、KEKB、は着実にその性能を向上させ、2004年には当初の目標であるルミノシティ、10^<34>cm^<-2>sec^<-1>を実現し、ビーム衝突型加速器の世界最高ルミノシティを更新している。一方、B-Factoryでの実験装置、Belle、は、当初の計画通りの粒子観測性能を発揮し、2001年には、当初の目標であったB中間子のCP対称性の破れを、三田・ビギの予想通り観測し、小林・益川理論の決定的な検証に成功した。また、既に、120編の学術論文を発表し、新たなB中間子崩壊過程の観測、従来の測定値のデータを次々と書き換え、素粒子の標準理論の検証、さらに、標準理論を越えるような現象の探索を行っている。さらに、これからも多くの貴重な成果発表が期待される。この成功は、B中間子の寿命測定に重要な役割を果たす、Vertex検出器の優れた性能に負うところが大きい。この測定器は、国際共同研究により製作され、たゆまぬ維持・改善の努力により、その能力を遺憾なく発揮できたものである。特に、耐放射線性の高い物に改善する努力が現在も継続されている。また、実験成功の鍵の一つは、電磁カロリーメターの優れたエネルギー測定精度と長年にわたって安定した性能維持によるところが大きく、同じく、国際共同研究ティームの貢献が大である。