研究概要 |
磁気スペクトロメーターの焦点面用飛跡検出器として2台目のドリフトチェンバーを製作した。これにより、焦点面検出器としての検出器系ができあがった。ビーム試験等により、当初の性能を満たしていることが確認された。本年度は、従来からラムダハイパー核の生成に使用している(π^+,K^+)反応ではなく、(π^-,K^+)反応を用いたラムダハイパー核の実験を行った。この反応では、標的原子核との間で電荷を二重に交換するため、二段階反応により原子核内の2個の陽子を中性子1個とラムダ粒子1個に転換することが可能である。しかし、その分、生成確率は桁違いに低くなるため、これまで実験されてこなかった。最近になって、理論的な予測として、原子核内でのラムダ粒子成分に仮想的にシグマ粒子成分が混合している可能性が示唆され、この混合があると二段階過程ではなく一段階でこの反応が起こることになる。すなわち、これまで予想されていたより高い生成率が期待できる訳である。この反応は、ラムダハイパー核の構造という観点からも興味深い。これまで研究されてきたラムダハイパー核に比べて、中性子過剰なラムダハイパー核の構造の研究という新しい領域を開拓するものである。π中間子の入射エネルギーを変化させた測定の結果は、仮想的なシグマ粒子生成過程の重要性を示唆するものとなっている。また、π中間子の入射エネルギーを十分高くしてやると、仮想的にではなく実際に原子核内にシグマ粒子を生成することが可能となる。そのような測定によるシグマ粒子と原子核との相互作用に関する研究についてもまとめを行った。 また、今後の研究の発展という観点から、現在建設が進められているJ-PARCと呼ばれる新しい加速器を使ったハイパー核に関する実験プログラムについて検討を行った。
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